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ルーツは広東にあり 「慶楽」の名前を広く知らしめた名物に、通称・スープチャーハンと呼ばれる“上湯炒飯(スープ入り焼きめし)”がある。鍋でぱらっぱらに煽られた炒飯に熱々の鶏スープをかける料理で、さながら中華版“だし茶漬け”のような一品。 日本のお茶漬けからの発想とも思われがちだが、ルーツは広東にあり。広東人はかなりのスープ好きで、家でも店でもよくスープを飲む。その代表格が、“例湯”(ライトン:日替わりスープ)。薬膳食材などを入れることもあるが、多くは大根や人参などの野菜と少しの肉を煮て塩で味つけしたものが主流で、軽くするすると飲める。亜熱帯に属する広東省にあって、例湯は体調維持に欠かせない料理としても愛され、食欲がないときはご飯や炒飯にかけてさらさら食べるのが常という。 気候条件の異なる日本では、もう少しコクのあるスープのほうがおいしいからと、「慶楽」では例湯ではなく鶏の“上湯”を採用。しっかり煽られた米、自家製チャーシュー、卵などがスープの中でほぐれ、旨さが花開く。つい夢中になるのも納得だ。 |
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「鍋の息を聞け」 このスープチャーハン、創業時からある定番料理だが、数年前にある種のブームになるまで、その存在をまったく知らなかった常連客もいるという。そう笑う區傳順(く・でんじゅん)料理長は二代目。中国きっての腕利き料理人を輩出する街として知られる広東省順徳に生まれた父は、日本の皇室からも篤い信頼を置かれるほどの名人で、広東料理の技と叡智を身につけていた方だったという。 その父に学んだ、忘れられない言葉がある。「料理は鍋の息だよ。鍋の息を聞きなさい」というもの。「最近になってやっと、ああこのことなんだ、とわかるようになりました」と區料理長。 炎と真っ正面から向き合うような調理の中、鍋が呼吸する音で料理が頂点を迎えた瞬間をつかむ。だから、「慶楽」はシンプルな炒め物が抜群に旨いし、そもそもスープをかける前の炒飯そのものがおいしい。その意味では、常連客が“上湯炒飯”を知らずにほかの炒飯を食べ続けていたというのもまた、うなずける話なのである。 | ![]() |
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“店の味”を守り続ける そんな「慶楽」の炒飯(スープチャーハンを含む)を食べて驚かされるのが、チャーシューの旨さだ。小さく刻まれているにもかかわらず、存在感たっぷりなこの旨さは、中国料理ならではの炉で吊るし焼きをしているから。焼き鴨などもこの炉で焼くため、表面はパリパリなのに肉汁があふれ出す。オーブン加熱とは一線を画す、肉のジューシーさを味わえるのである。 厨房にお邪魔すれば、大きな炉や蒸籠、実に20,000kcalのガス口など、「慶楽」では広東伝統の味を守り続けるためのハード面も完備していた。「昔は店ごとに特徴がありましたが、代替わりで主人が調理をしない店が増えています。それでは“店の味”は守れない」と憂う區料理長は、今も調理場で陣頭指揮をとる。その厨房では現在、次の世代を担う長男も活躍中だと聞く。 名人であった先代がもう一つ、教えてくれたことに「良心的でありなさい」がある。「時代が変わっても、店にとって一番大切なことは、これに尽きるのではないでしょうか」(區料理長)。“豚肉ともやしの焼きそば”や中華風の“牛バラ肉カレー”など、さりげない日常メニューにもここだけの味がたくさん潜んでいる「慶楽」。看板に掲げる「純廣東料理」の“純”な味は、しばらく安泰なように思われる。 |
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